南国パラオの暮らしの工夫~定住旅行家ERIKOが住んでみた、世界のお家 vol.16

世界中で現地の家庭に滞在し、その国の文化や暮らしを体験する”定住旅行”を行う、モデル・定住旅行家のERIKOがお届けする、“定住旅行家ERIKOが住んでみた、世界のお家”シリーズ。

今回お届けする国は、2019年の最初に定住した「パラオ」からです。

日本から南に約3,000kmにあるパラオは、ミクロネシアにある国です。

ミクロネシアはギリシア語で“小さい島々”という語源の通り、小さな島々が点在しており、太平洋の中で最も日本に近い赤道以北の地域です。日本と緯度が同じで時差がなく、世界でも有数のダイビングスポットでもあり、日本人にとっても観光地やハネムーンを過ごす国として人気があります。
パラオには200以上の島々がありますが、そのほとんどは無人島で、人口2万人のほとんどはコロール島に暮らしています。

日本人に親しみが持たれるのはその距離や時差だけではありません。
パラオは昔、日本の委任統治領として1914年から30年間日本が統治し、日本からも多くの移民がパラオに移住しました。第二次世界大戦の時には、パラオは日本海軍の基地でした。

その影響で、現在でも日本を感じられるものがたくさんあります。
たとえば、言葉。「ツカレナオス」=「ビールを飲む」、「アジダイジョウブ」=「美味しい」、「デンワ」、「ブドウ」など、日本語がもとになったパラオ語が使われています。また、家庭料理にも日本の味が残っています。醤油や味噌を使った食事や、カレーライス、刺身など、ほとんどが日本食と変わりないほど似ています。

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自然と融合するパラオのお家

さて、パラオ人が暮らすお家を見ていきましょう。パラオのお家は、パラオのその暑い気候に影響を受けた造りとなっています。


こちらは私が滞在させてもらった、クマンガイさんのご自宅。
クマンガイという苗字も、“クマガイ”がパラオ語の発音に変化したものでしょう。周囲の自然と融合しているような空間の中に住居が建っています。


パラオの家は必ずと言っていいほど、家の一部に日陰が出来るスペースが確保されています。
家の中にもリビングはありますが、普段家族が集う場所は外のスペースです。キッチンとも繋がっており、ダイニングの役割も果たします。太陽の陽が強くない早朝や夕方以降は、風が抜けて涼しく、エアコンいらずで過ごすことができます。

一見、外の空間と繋がっているように感じるのですが、家の内部に入る時には靴を脱ぐ習慣があります。ですので、基本的に家にいる時は素足で生活します。
しかし、この習慣が生まれたのは最近になってからなのだそう。昔パラオ人はそもそも靴を履いていなかったようで、靴を脱ぐ習慣もなかったそうです。

パラオ語で「ゾウリ」と呼ばれる靴を履くようになってから、このような習慣ができたのだそうです。 クマンガイさんがこの家を建てたときには、周囲に草木が全くなかったと話していました。
パラオの強い日差しから家を守るために、背の高いフルーツの木などを植林し、日陰ができるようにしたのだそうです。


こちらは家庭菜園。茄子やネギ、オクラやフルーツなど、栄養が豊富なパラオの土壌で様々な種類の野菜や果物を栽培し、日々の食生活を支えています。

また、パラオ人の家庭でよく食卓に上る魚は、買うものではなく、伝統的に各自が漁へ出て素潜りで獲得するものです。パラオ人は泳ぎが得意な人が多いのです。


こちらはキッチン。キャビネットなどは木製の素材が使われているのですが、暑さや湿気に弱く、またシロアリも家具や家を蝕む大きな問題の一つです。
時期が来たら取り外して新しいものに付け替える予定なのだそう。


こちらはパラオ語で「ベンジョ」と呼ばれる、トイレとバスルーム。
通常鏡が設置されている場所は解放され、外の景色を切り取った絵画のようにも見えます。


家のなかのリビング。夜寝る前に家族がテレビを見るために集まる部屋です。
また現在、クマンガイさんの書斎を増設中とのこと。もともと所有している土地が広いので、増築をしたいと思えば簡単にできてしまうのも大きなメリットです。


パラオ人の願掛け


パラオの国旗はとても日本の国旗と似ているのですが、実は日本の国旗を意識しているわけではありません。パラオの国旗のデザインは独立する時に一般公募して決まったもので、デザインをした人がどのような意図で作ったのか、はっきりとわかっていません。
しかし、ブルーはパラオの海や青空、そしてやや左に位置する黄色い丸は月ではないかといわれています。

パラオ人にとって月は、暮らしや儀式に直結するとても大切なものであります。
たとえば、畑で野菜や果物などを植えたり収穫するタイミングは月の満ち欠けを見ながらおこないます。そうすることで作物が育ちやすく、また糖度の調整ができるためです。
また、引越しや新しい事業を始めるときなどは、決まって満月か新月の時におこなわれるのが一般的です。
新しく始めることに実りがあるよう、素晴らしいスタートがきれるようにという願いが込められるのです。


先祖と暮らす家


パラオの伝統的なお家には、このように家の入り口付近にお墓がある場合があります。
パラオには氏族と呼ばれる社会制度があり、高いクランの家系の場合、家とお墓が同じ敷地内にあります。

墓石には、故人が生まれた日と死亡した日が記載してありますが、生まれた日を「Sunrise 日の出」、亡くなった日を「Sunset 日の入り」と表現してありました。
自然と共に暮らすパラオ人独特の死生観が表現されているように感じます。

パラオ人のお家と生活は、太陽の強い日差しとどう向き合い、月の満ち欠けに合わせて人生のリズムを合わせるという、常に空と対面しながら暮らしを営んでいるようでした。
光を上手に利用しつつ、工夫して影を作り身を守る。機械がテクノロジーに頼りすぎない、自然で豊かな生き方がそこにあります。

ERIKO 
モデル・定住旅行家 モデル活動と並行し、「定住旅行家」として、世界の様々な地域で現地の人びとの家庭に入り、生活を共にし、その暮らしや生き方を伝えている。 訪れた国では、民間外交を積極的に行い、現地と日本の架け橋になる活動も行う。これまで定住旅行した国は、ラテンアメリカ全般(25カ国)、ネパール、フィンランド、ロシア、サハ共和国、ジョージア、イタリア、北海道利尻島、三重県答志島などで、74家族との暮らしを体験。著書に「暮らす旅びと」(かまくら春秋社)。「日経トレンディネット」、「不二家 ERIKO&ペコちゃんの旅」で連載中。
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インスタグラム:erikok1116

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定住旅行家 ERIKO

モデル・定住旅行家
モデル活動と並行し、「定住旅行家」として、世界の様々な地域で現地の人びとの家庭に入り、生活を共にし、その暮らしや生き方を伝えている。 訪れた国では、民間外交を積極的に行い、現地と日本の架け橋になる活動も行う。これまで定住旅行した国は、ラテンアメリカ全般(25カ国)、ネパール、フィンランド、ロシア、サハ共和国、ジョージア、イタリア、北海道利尻島、三重県答志島などで、74家族との暮らしを体験。著書に「暮らす旅びと」(かまくら春秋社)。「日経トレンディネット」、「不二家 ERIKO&ペコちゃんの旅」で連載中。