地域の歴史と文化を反映した新しい分譲住宅のカタチ<建築家・宮下信顕氏インタビュー前編>

2019.02.26

地域の歴史と文化を読み取り、その土地の物語を生かして、住む人が地域とのつながりを感じることのできる住宅。ただ快適に暮らせるだけではない、そんな新たな価値をもった分譲住宅をハウスメーカー・アイダ設計が生み出している。

これまでのディベロッパーやハウスメーカーが分譲住宅を建てる際に見落としてきた、地域に根ざした住宅をつくるというコンセプトをもっているのが、アイダ設計による分譲住宅「FU-GA戸張」(千葉県柏市)と「アイトピア清瀬市下宿3丁目」(東京都清瀬市)だ。

特徴的な外構が上品な街並みをつくり出している千葉県柏市の分譲住宅「FU-GA戸張」
これらの分譲住宅をデザインしたのが建築家の宮下信顕氏。学生時代から多くのコンペ(設計競技)で入賞し、大手ゼネコンで企業のオフィスや研究所を先鋭的なデザインでまとめ上げてきた宮下氏が、アイダ設計との協業でキーワードとしたのが「オープンリビングのある暮らし」だという。

今回、なぜ地域に根ざした分譲住宅を目指したのか、そして「オープンリビング」とはどんなものなのかを宮下氏にお話をうかがった。

宮下信顕(みやした・のぶあき) 1972年長野県生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒業。同大学大学院修士課程修了後、竹中工務店入社。設計コンペの入賞数の多さから「コンペキラー」として注目され、担当作品は約100件の建築・デザイン賞の受賞実績を誇る。


土地の歴史や文化からデザインを発想した住宅

――今回は、アイダ設計との協業プロジェクトの分譲住宅について、千葉県柏市の「FU-GA戸張」と東京都の「アイトピア清瀬市下宿3丁目」を中心にお話をお伺いしたいと思います。まず、はじめに宮下さんが分譲住宅のデザインをされる際には、どのような流れで行なっているのでしょうか。

宮下信顕氏(以下敬称略) まずは、その土地に大きな付加価値を与えることで、住宅の価値を高められないだろうかということを考えます。土地に合わせたコンセプトを打ち出すことで、土地や建物につけられた値段以上の価値を生み出す作業です。そのためには、土地がもつコンテクスト(文脈)を読み取る必要があります。私が設計を行う際には、この文脈を読むという手続きを非常に大切にしています。

――その土地が持つ文脈ということですね。

宮下 そうです。文脈を読む際、目に見える部分、例えば方角や地形などは、誰もが気がつく点ですが、私がとくに大切にしているのは、目に見えないもの、その土地で育まれた歴史や文化です。その土地の歴史や文化の中で、これから住む人々の生活が営まれるわけですから。どのような住宅にでも当てはまることをコンセプトとして取り上げるのではなく、その場所でしかあり得ない、サイトスペシフィックなことを実現したいといつも思っています。

――では、アイダ設計との最初の分譲住宅プロジェクトである「FU-GA戸張」のコンセプト、「武家屋敷ととばり文化」「オープンリビングのある住まい」というのは、どのようにして生まれたのでしょうか。

宮下 文脈を読むために、柏について調べ始めると、学生時代、柏市に6年間も住んでいたにもかかわらず、さっぱり理解していなかったことに気がつきました。例えば、現在、柏市の中心となっているのは、柏駅の周辺です。しかし、鉄道駅ができる以前は、そこにはなにもなかった。千年単位でさかのぼって調べてみると、長らくあの辺りの中心地だったのは、戸張が位置する手賀沼の周辺でした。利根川を利用した水運があって、房総半島の銚子などとつながる要所だったわけです。さらに調べてみると、鎌倉時代にこのあたりを治めていた戸張氏が、まさに「FU-GA戸張」の敷地の上に城を築いていたということがわかりました。用替城という城の跡地で、武家が住んでいた場所だったんですね。ここから武家屋敷というコンセプトが生まれました。

かつては水運が栄えた手賀沼。戸張は手賀沼のほとりに位置しており、中世には一帯を支配した戸張氏らが拠点とした城郭が存在した。
また、戸張という地名からも着想を得ています。戸張という言葉は、古来、仕切りを表す帷(とばり)と同じ意味で使われていました。そこで、平安時代にあったような、御簾(みす)でやわらかく空間を仕切る家のつくりをテーマとして取り入れ、優雅さを演出しようと考えました。「FU-GA」(風雅)というネーミングもそこからきています。

外構部分を敷地の内側から見る。手前の敷地部分はしっかりとプライベートが確保された空間で、屋内の一部のように使うことができる。
壁面はスリット状に抜けた部分がデザインのアクセントとなっている


住まいの内と外のつながりをつくる

――敷地の外構部分にも、仕切りのイメージが表現されていますね。

宮下 リビングルームの窓を開けると、道路から丸見えになるような家では、カーテンを開けることもできません。せっかく家を買っても、それでは住めないなと考えました。外部からの視線をどのように切っていくか、中間領域をどう設計し、いかに使いこなすかを考える必要があります。今回、アイダ設計からお話をいただいたときも、中間領域にやわらかな仕切りをつくり、そこに暮らしの延長となる部分を用意したいという思いがありました。

敷地の内外をはっきり分けている外構の壁は、視線を遮る役割だけでなく、分譲地の街並みを形成する重要な要素となっている。
そのため、戸建ごとに開口部分がことなるなど、単調にならないように綿密に計算されている

とはいえ、外部からの視線を遮る塀で囲まれた家をその土地で正当化させて、なおかつ商品化するには、しっかりとした理論付けを行う必要があります。そのため、土地の歴史性やコンテクストを読み取り、結果として生まれたコンセプトが、やわらかく空間を分けるという帷(とばり)の概念と、武家の屋敷が並んでいたという文化です。「FU-GA戸張」ではこれらを「オープンリビング」という言葉に置き換えました。そして、これ以降の私が手がけたアイダ設計の分譲住宅では、「オープンリビング」をシリーズ化しています。

――オープンリビングというのは具体的にはどのようなものでしょうか。

宮下 現在、ハウスメーカーが造っている住宅では、日本の住まいが本来持っていた一番のよさが失われてしまっています。古来の住宅は、縁側や濡縁のように、内部から徐々に外部に溶けていく中間領域を必ず持っていたんですね。縁側に腰掛けて皆が集まり、そこでより関係の深まった人は中に招かれて、居間でもてなしを受ける。そのような装置が、かつてはどの家にもありました。いまの住宅は、内側と外側が完全に隔てられていますが、これからの住宅は、内と外をゆるやかにつなげていく装置を取り戻していかなければならないのだと思います。オープンリビングという言葉は、そのように人が憩う場所を作るという意味で使っています。リビングルームを外へ拡張して、住む人がより豊かに暮らせるようなスペースを作るということです。

分譲住宅「FU-GA戸張」のリビングは、そのまま窓の外のウッドテラスに続くようなつくりとなっている。
このテラス部分が中間領域となり、住む人の生活を豊かにしていく。窓の上の壁にライトが設置されているのも外とのつながりを意識したもの

ダイニングの個性的な照明は宮下氏がこだわって選んだもの。分譲地の敷地計画から室内の設備まで、宮下氏のデザイン監修は多岐にわたる
もうひとつ、今回のプロジェクトで目標としていたのは、中間領域であるオープンリビングを組み込むことによって、品格のある街並みを構築することです。住む人の暮らしを豊かにすると同時に、街の景観にも付加価値を与えるような家を目指しました。
(後編につづく)


ここまで建築家の宮下信顕氏に、その土地の環境のなかで生み出された分譲住宅である、千葉県柏市の「FU-GA戸張」について伺ってきた。
インタビュー後編では、「オープンリビング」をさらに発展させ、ビオトープのある暮らしを提案した分譲住宅「アイトピア清瀬市下宿3丁目」について宮下氏に聞いた。