アイダ設計とともに試みる新しい分譲住宅のカタチ<宮下信顕氏インタビュー後編>

2019.03.22

地域の歴史と文化を読み取り、その土地の物語を生かして、住む人が地域とのつながりを感じることのできる住宅。
これまでの分譲住宅ではあまり顧みられてこなかった、こうした地域に根ざした分譲住宅をつくる試みを、住宅メーカー・アイダ設計と建築家・宮下信顕氏が行なっている。

これまで大手ゼネコンでキャリアを積み、100件以上の建築・デザイン賞の受賞経験をもつ宮下信顕氏に、この協業で生まれた分譲住宅についてインタビュー。
前編では、なぜこのようなコンセプトの分譲住宅が生まれたきっかけや、最初に手掛けた千葉県柏市の「FU-GA戸張」について詳しく伺った。

後編となる今回は、最初のコンセプトをさらに発展させた、東京都の「アイトピア清瀬市下宿3丁目」プロジェクトについて、またこれからの住宅の設計に必要なことについて、お話を聞いた。


住む人が地域の歴史とつながることのできる住宅


――次は、オープンリビングについて少し違った展開がされている分譲住宅「アイトピア清瀬市下宿3丁目」のコンセプトについてお聞かせください。

宮下 清瀬でも、まずは地名について調べました。清瀬というのはどういう由来があるのだろうと。ずっとさかのぼっていくと、神話の時代、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)に行き着きました。日本武尊が東征に赴く途中、現在の清瀬の地で一休みしたときに、土を見て、「清き土なり」と言ったという伝説があるんですね。ここから清土という地名がつき、時代を経るうちに清戸となったそうです。

現地近くを流れる柳瀬川。初夏には鮎釣りも楽しめるという自然豊かな川だ
その後、明治時代になって、周辺のいくつかの村が合併した際に、清戸の「清」とこの地を流れる柳瀬川の「瀬」から、清瀬の名が生まれています。その名の通り、肥沃な土と清らかな水が、多様な動植物を育んでいる場所です。

柳瀬川沿いにある「清瀬下宿ビオトープ公園」は、地域の豊かな生態系を公園内に再現し、気軽に自然観察ができるようになっている。
ちなみにビオトープとはその地域にすむ生物が生息できる空間のこと

アイトピア清瀬の周辺には、都内でも有名な「清瀬下宿ビオトープ公園」があり、そこからビオトープとともに生きるというコンセプトを得ました。オープンリビングにさらに手がかりを与える仕掛けとして、または行為を誘発するような装置として、ビオトープを組み込んでいます。

リビングの先に広がるビオトープ。地域の環境とのつながりを感じさせ、敷地内で完結させないつくりとなっている
もうひとつ、ビオトープの横に柊の木を植える提案もしました。それは、日本武尊が「清き土なり」と言ったとき、座っていたのが柊の木の根元だったという伝説に基づいています。子どもの成長とともにその木が育っていくわけです。この地を舞台とした伝説を現代に継ぐという、代えがたい物語を与えてあげたいと思ったんですね。

―― 一般的なの分譲住宅にはない、住む人たちが地域の歴史の一部になれるような仕掛けですね。

宮下 そこでしかあり得ないものを提供したい。アイダ設計とは、そういう価値感を共有できていて、さまざまな場所でオープンリビングを展開しようということで、プロジェクトに取り組んでいます。

リビングがそのまま屋外まで拡張されたような空間が魅力の「アイトピア清瀬」の住宅のリビングダイニング。
テラス部分の先にはビオトープやヒイラギの木がある

住宅環境は南向きの窓があればいいという単純なものではない

――土地の歴史を掘り起こしたり、文脈を読んだりという設計方法は、いつも重視されているのでしょうか。

宮下 まさにその通りで、雑誌などで、私はコンペキラーと紹介されることも多いのですが、これまでに多くのコンペで勝つことができた理由は、このやり方にあるいえます。単に格好良いデザインができる人というのはいくらでもいます。でも、その場所にしかない文脈を読み解くことができて、それをちゃんと言葉にできる人というのは、あまりいない。与えられた課題に対して、唯一無二のコンセプトを打ち出すことができた人が、コンペで勝つことができる。言葉が見つかってしまえば、そこから先はあまり問題ではないんですね。どういうコンセプトを見つけるかで、すでに勝負がついている。そういう経験を繰り返してきたので、アイダ設計の分譲住宅でも、ストーリーづくりをはじめとして、他ではできないものを提案しています。

――これまで数多くの大きな規模の建築物の設計をされていますが、一般住宅との違いや、気をつけている点などはあるのでしょうか。

宮下 設計手法としては、基本的に大規模建築と一般住宅のあいだに違いはありません。大規模建築では、住宅の洋室が10倍になってオフィスになり、玄関が広がってエントランスホールになり、ダイニングルームが拡張されて食堂になっているというだけです。現在の建築設計のトレンドとしては、オフィスを住宅として読み解けるかどうかがひとつのポイントになっています。オフィスでやってはいけないのは、床面積を確保しただけの箱を作ってしまうことですね。大事なのは、居心地のよさ。使う人の居場所を作ることです。ですから、オフィスであれ、そのほかのものであれ、住宅のよさとはなにかという点を常に意識しています。居心地がよすぎて、そこで働く人たちがなかなか帰らなくなるくらいにしたいと(笑)。

数々の企業のオフィスビルや研究所、工場などの設計を幅広く手がけてきた宮下氏
違う点を挙げるとすれば、まず設計と建設の期間があります。大規模建築だと3年から5年後の完成になるので、それだけ考える猶予がある。一方、住宅は半年後には売れる状態にしなくてはならなかったりするので、瞬発的な能力が必要になります。

もうひとつ違う点は、環境ですね。光の入り方や窓からの景色のような。住宅と違って、オフィスビルはたくさんの人が使うものですし、窓の外の風景よりも、出来る限り均質な光環境が求められます。でも住宅では、光とか風とか、そういった環境がとても大切な要素になります。同じ環境で、同じ風景を眺めながら、ずっと暮らすことになるわけですから。

美しく光が入るよう計算された「アイトピア清瀬」の住宅の和室
――長く暮らすことを考えると、やはり環境は気になります。

宮下 そうですね。慎重に読み解きます。例えば、光の入り方に関して言えば、南向きの窓が必ずしもよいというわけではありません。西日は避けたいですが、東からの光は重要です。東からの光が一番きれいですし、体内時計をリセットして、生活のリズムを整えてくれるのも朝日です。リビングを南向きに確保しても日中に人がいなければ仕方ありません。それよりも、家族が揃う朝の食卓に東からの光が当たるようにする。そのように生活を丁寧に読み解いて、住宅を設計する姿勢を大切にしています。

「アイトピア清瀬」住宅の明るいダイニング
――ほかにも、進行中のプロジェクトとして、神奈川県横須賀市のアイ・ブリッジ横須賀久里浜という大規模な分譲住宅があるとうかがいました。

宮下 久里浜のプロジェクトは、アイダ設計の分譲住宅シリーズのなかでも、ひとつの集大成として手がけています。

――やはりいろいろとお調べになっている?

宮下 調べましたね。それはもう、すごい勢いで。

――アイダ設計の注文住宅の基本設計も手がけているとのことですが。

宮下 これからの住宅には、現代の変化が激しい家族のライフステージに対応していく必要があると私は考えています。たとえば近年では、夫婦ふたりで豊かに暮らそうという方々も増え、そうした方々からは平屋が注目されています。この需要に応えるため、平屋住宅のコンセプトの提案や基本設計を行っています。将来的にはこの平屋住宅のシリーズ化を目指しています。

――そちらも楽しみにしています。本日はありがとうございました。

宮下 ありがとうございました。