世界最古の天然エアコンが生まれたイラン・ヤゾドのお家~定住旅行家ERIKOが住んでみた、世界のお家 vol.12


中東、西アジアに位置するイラン。日本とはなんとなく遠いイメージのする国ですが、野球選手のダルビッシュ有さんや、歌手のMay.Jさん、タレントのサヘル・ローズさんの活躍からイランをイメージする方も多いのではないでしょうか。

イランの国土は日本の約4倍。周囲に7つの国と国境を接しており、海を隔てての対岸国を含めると15カ国の隣国を持ちます。また、カスピ海、ペルシャ湾に囲まれ、古代はペルシア帝国と呼ばれていた時代もありました。
3000万~2500万年前、アフリカ大陸から分裂したアラビア半島が、ユーラシア大陸に衝突した際、その衝撃によって現在のイラン高原とほぼ全ての山脈が隆起したと言われています。
砂漠のイメージが強いイランですが、国内には山岳地域、砂漠地帯、海岸部など、様々な気候に富んでおり、どこへ出かけるかによって、そのイメージは全く異なる印象を持つのも特徴です。

人口は約8000万人、首都のテヘランは1000万人が暮らす大都会です。資源も豊富にある国で、天然ガスは世界2位、石油は世界第5位の埋蔵量を誇ります。
現在、日本に輸入されている石油の5%はイラン産です。

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砂漠に暮らす家族

今回は、ザ・イランのイメージである、砂漠地帯にある街、ヤズドの家をご紹介したいと思います。
ヤズドは、地球上でも最も古い歴史を持つ都市の一つとして知られています。紀元前から開拓されたイラン中部の砂漠地帯にあるオアシス都市で、キャヴィール砂漠とルート砂漠の交わり、シール・クーフ山脈とハラネグ山地の谷間に位置しています。

非常に乾燥した気候で、夏は暑く、冬は寒いのが特徴です。また、昼と夜の寒暖差も非常に大きいです。過去、夏の最高気温40℃と冬の最低気温-20℃が記録されています。
私が滞在したのは、4月の春でしたが、すでに日中は40℃を超える暑さの日々が続いていました。
ヤズドは世界最大の日干し煉瓦造りの住宅地として知られていますが、2017年に旧市街地の約700ヘクタールが世界遺産に登録されました。


今回はヤズド市内に暮らす、ガニマッドさんのお宅をご紹介しましょう。


各部屋にしかれるペルシャ絨毯に詰まった家族の歴史


全体的にが少なく、日差しが入ってこない作りになっていますが、エントランスに日差しが差し込むスペースがあり、そこで観葉植物などを育てています。


イランと言えば、ペルシャ絨毯が有名ですよね。家には全ての部屋に絨毯がひかれています。
絨毯は家族の様々な思い出とエピソードが詰まっている家具でもあります。
その一つに、イランでは結婚のときにお嫁さんの家族が絨毯や家具を購入してプレゼントするという習慣があります。絨毯は地方によってそれぞれ特徴がありますが、シルクで出来たものは特に高価だそうです。

またイランでは伝統的に結婚すると、男性の家に同居するというのが一般的だったそう。
しかし、現在は経済的に余裕があるカップルであれば、マンショやアパートを借りたりして、別居するスタイルが人気になっているそうです。
お互いが経済的に安定してない場合、どちらかの親の家が広い方で暮らし、働きながら将来のために貯金をするそうです。


間取りは3LDKあり、中でもキッチンリビングは、極端に広くスペースが確保してあります。
キッチンとリビングは、イラン人の暮らしにとってとても大切なスペースとなります。彼らは頻繁に、家族や親戚などと食事をする習慣があります。
多いときで、20人以上が訪問することも。そんな場合は、女性たちがキッチンに入り、キッチンのも調理スペースとして使われるのです。

また、広々としたリビングも食事をするためのスペースとして確保しています。絨毯の上で食べる食事は、みんなとの距離が近く、一体感が味わえる特別な体験です。


ガニマッド家のお父さん、モハマッドさんはイランでも有名なアーティスト。家の地下には、モハマッドさんが作業を行うためのアトリエがあります。
モハマッドさんは、1日の多くの時間をここで過ごし、創作活動を行っていました。


イランの家で多く見かける、アンティークのフェイスウォールクロック。部屋の中でも存在感のあるインテリアです。


エコで体にいい、昔の天然エアコンシステム

今でこそ、ヤズドに暮らすほとんどの人は、エアコンを利用したり、現代的な作りをしている家に暮らしています。しかし、一昔前、電気などがなかった時代、この乾燥した砂漠地帯で、暑さをどうやってしのぎ、お水などはどうやって確保していたのでしょうか。
実はヤズドには、砂漠環境に適応するために、世界を代表する画期的な建築や水路システムがあったのです。


その建築を代表するのが、“風の塔”、“バードギル”呼ばれる天然クーラーです。
バードギルは通称、風取りの塔と呼ばれていますが、上空の涼しい風を家の中に送り込むシステムとなっています。
そのバードギルがついている昔の建物に入りました。暑さを凌ぐため北向きに作られており、南、西、東には窓がついていませんでした。その日は外気が40℃近くあったのですが、屋内は非常に涼しく肌寒いと感じるほどでした。


また、ヤズドは世界最大のカナート網を持っていることでも有名です。
現在でもこの水路は使用されていて、100キロ以上離れた山脈の雪解け水を地下水路で引いています。年間雨量が250ミリしかない乾燥した地帯ですが、周囲は4000m以上の山々に囲まれているため、地下水が豊富にあるのです。
また、水を冷たいまま貯蔵する“ヤクチャール”と呼ばれるドーム型の建築もありました。

現在は使われていませんが、街を歩いていると、これらの建造物が良い保存状態のまま残っており、たくさん出会うことができます。
自然環境の変化で、我々が使用する冷暖房設備は年々進化していますが、一度タイムスリップして、天然エアコンで一夏過ごしてみたいですね!


ERIKO

モデル・定住旅行家 モデル活動と並行し、「定住旅行家」として、世界の様々な地域で現地の人びとの家庭に入り、生活を共にし、その暮らしや生き方を伝えている。 訪れた国では、民間外交を積極的に行い、現地と日本の架け橋になる活動も行う。これまで定住旅行した国は、ラテンアメリカ全般(25カ国)、ネパール、フィンランド、ロシア、サハ共和国、ジョージア、イタリア、北海道利尻島、三重県答志島などで、74家族との暮らしを体験。著書に「暮らす旅びと」(かまくら春秋社)。「日経トレンディネット」、「不二家 ERIKO&ペコちゃんの旅」で連載中。
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定住旅行家 ERIKO

モデル・定住旅行家
モデル活動と並行し、「定住旅行家」として、世界の様々な地域で現地の人びとの家庭に入り、生活を共にし、その暮らしや生き方を伝えている。 訪れた国では、民間外交を積極的に行い、現地と日本の架け橋になる活動も行う。これまで定住旅行した国は、ラテンアメリカ全般(25カ国)、ネパール、フィンランド、ロシア、サハ共和国、ジョージア、イタリア、北海道利尻島、三重県答志島などで、74家族との暮らしを体験。著書に「暮らす旅びと」(かまくら春秋社)。「日経トレンディネット」、「不二家 ERIKO&ペコちゃんの旅」で連載中。