気密と耐震の重要性とは?松尾和也氏に聞く「健やかな暮らしができる家」第4話

2018.04.07

住宅ライターの箕岡智子(ともこ@住宅ライター)です。
この連載は、書籍「ホントは安いエコハウス」(日経ホームビルダー編)の著者である建築家の松尾和也さんに、健やかな暮らしができる家について解説いただくシリーズです。今回は第4話!

前回は、断熱の性能について解説いただきましたね。今回は、断熱のパフォーマンスを上げてくれるとっても大切な「気密」と、地震大国日本に住んでいる限りスルーはできない「耐震」について教えていただきます。

本題に入る前に、近年の住宅事情をちょっと振り返ってみましょう。

まず日本の家は、地震とともにあると言っても過言ではございません。
というのも、2011年3月に発生した東日本大震災を機に、日本が抱える数々のエネルギー問題が浮き彫りとなりましたよね。この問題を解決する取り組みの一つとして、ZEH(通称ゼッチ/ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略)が誕生したということを知っている人もいると思います。
もっとさかのぼってみても、大地震の発生が基準の見直しのタイミングになっていたりします。
また、2016年4月に発生した熊本地震は、震度7が2回連続で発生し、甚大な被害が生じました。現地を訪れた専門家の人たちは、耐震等級3の重要性を目の当たりにすることとなったのです。

この連載の解説者である松尾和也さんもその一人です。
実際に松尾さんが現地で聞かれたお話を後半で紹介したいと思いますので、良かったら最後までおつきあいくださいね。

【家づくりの大事なことがグッとわかる!松尾和也氏に聞くシリーズはこちら】


松尾和也さんってこんな人


松尾和也(Kazuya Matsuo)さんプロフィール

有限会社松尾設計室 代表取締役(平成18年4月1日~)。1975年 兵庫県出身。1998年九州大学工学部建築学科卒業(熱環境工学専攻)。JIA(日本建築家協会)登録建築家。一級建築士。APECアーキテクト。2005年サスティナブルTOKYO世界大会で「サスティナブル住宅賞」受賞。「健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現する」がモットー。設計活動の他、「日経アーキテクチュア」「日経ホームビルダー」「建築知識」「新建ハウジング」等の専門誌への執筆活動や「断熱」「省エネ」に関する講演も行なっており、受講した設計事務所、工務店等は延べ5000社を超える。2009年パッシブハウスジャパンを立ち上げ、理事としてドイツの最先端省エネ建築の考え方を、日本の気候条件に合わせる形で普及促進活動を行う。日本エコハウス大賞の審査員も務める。著書には「ホントは安いエコハウス」「あたらしい家づくりの教科書」がある。
松尾さんの講演活動についてもっと知りたい人は第1話をご覧ください。


箕岡智子(以下智子)「松尾さん、引き続きよろしくお願いします。」

松尾和也さん(以下敬称略)「こちらこそ、よろしくお願いします。」


気密は断熱と同じくらい重要!

松尾設計室がてがけたM様邸。熱損失係数(Q値)は、1.29(W/㎡K)でした。
智子「繰り返しになりますが、前回は、断熱性能を表すQ値やUA値について教えていただきました。これらと同じように、気密性能をあらわすのに、C値という数値があるんですよね?」

松尾「簡単に言うと、C値(c㎡/㎡)は隙間を数値化したものです。相当隙間面積と言って、家にどのくらいの大きさの隙間があるかを表しています。Q値やUA値と同じで、小さい方が気密が取れているということになります。」

智子「どんなに断熱性能を上げても、穴の空いたところから隙間風が入ってきてしまっては、寒いままですもんね。でも、住宅メーカーの中には、高気密は息苦しいと言う会社がありますが…」

松尾「たしかに気密を嫌う会社は、まだあります。ただ、気密が息苦しいというのは理論ではなくて、イメージだけの話なんです。
逆に、きちんと気密をしていないと、寒い暑いの問題だけではなく、壁の中で結露を起こしてしまって建物自体の寿命を縮める可能性もあります。」

智子「そうなんですね。やはり気密はとても大事!となると、自分の家のC値がどのくらいなのか知りたいってなりますよね。C値も、Q値やUA値と同じように計算してもらったら分かるのですか?」

松尾「C値は、計算ではなく、気密測定をしないと分かりません。これは、専門の業者が測定してくれます。測ってみると、どこかに隙間は必ず見つかるものです。どんなに丁寧に施工をしていたとしても。その隙間を埋めるか埋めないかで、生涯の暖房・冷房効率が変わってきます。」

智子「つまり、生涯の暖房費、冷房費が違ってくるということですね。家を建てるなら、絶対に気密測定して欲しいです。」

松尾「地域や会社によりいろいろだと思いますが、気密測定は4万円程の費用でできますから。」

智子「そうなんですね!」

松尾「ただ前回と同様で、自主的に計測をしている会社は少ないです。住まい手が自ら依頼することもできますが、自主的にC値を測定しているか、していないかも、住宅メーカーを選ぶ際の判断基準に加えてもいいと思います。」

智子「なるほど!覚えておきます。」


C値にも目標の数値が、あるんです!

松尾設計室がてがけたM様邸。延べ床面積133.31㎡(40.32坪)。隙間の広さは、約67c㎡という計算。
これはハガキの半分よりも小さいサイズ。

智子「こちらのM様邸のC値はどのくらいですか?」

松尾「0.5(c㎡/㎡)です。分かりやすく言ったら、Mさんの家の隙間を集めたら、ハガキの半分くらいの大きさということですね。
一般的に高気密住宅は2.0(c㎡/㎡)以下と言われています。45坪の家でいうと、約ハガキ2枚分の隙間です。」

智子「ということは、M様邸は一般的に高気密住宅と言われている1/4の隙間ということですね。」

松尾「はい。高断熱・高気密をウリにしている会社は、1.0(c㎡/㎡)を切っているところが多いので、できれば1.0(c㎡/㎡)以下がいいですね。」

智子「1.0ですね。あと、2020年にUA値(断熱を表す数値)は、この数値よりも小さくしないとダメという基準が義務化されますが、C値にもそういった基準があるのですか?」

松尾「以前は基準となる数値があったのですが、今はなくなってしまいました。話せば長くなるので省略しますが、今回は、C値は1以下で、小さければ小さいほどいい、ということを覚えていただけたらと思います。」

智子「分かりました!」

※1999年の次世代省エネ基準では、寒冷地は2.0以下、温暖地は5.0以下(世界基準と比べるととっても悪い数値)というC値の基準がありました。しかし、2012年の改正省エネ基準では、C値が削除されました。


松尾さんが見てきた熊本

ここからは、耐震について教えていただきましょう。
住宅には耐震のレベルを表す「耐震等級1・2・3」というのがあります。日本の住宅は、耐震等級1が最低基準とされていますが、実際はどうなのでしょうか。
松尾さんが、熊本に訪れた時のお話を紹介します。

【熊本地震の“家”の現実とは……?】

耐震等級3のM様邸。松尾設計室で耐震等級3は標準としている。
智子「松尾さんは、耐震等級3の必要性をずっと発信されていますよね。」

松尾「はい。昨年、熊本で講演をさせてもらった時のことです。熊本地震で家が倒壊してしまった人とお話をすることがありました。
もし耐震等級3の建物だったら、家が潰れなくて済んだのを知っていますか?とたずねました。」

智子「何と答えられていましたか?」

松尾「え?耐震等級?なんですかそれ、って。」

智子「ご存知なかったのですね。」

松尾「耐震等級3にするのに、プラス30万円程だと知っていたら、建てていましたか?
とお聞きしたら、当たり前じゃないですか!と。」

智子「当然ですよね。」

松尾「なら、耐震等級3ではなく、2はどうなのかと言ったら、熊本のように震度7が2回連続でくるってなったら、耐震等級2では耐えられないんですよ。ただ、耐震等級2でも長期優良住宅になるからそのあたりが微妙なんです。」

智子「そうなんですね!! 」

松尾「それに、これから、東南海地震が50年以内に90%の確率で、首都直下地震も70%ぐらいで発生すると言われていますよね。今の建築基準法の耐震等級1というのは、国の考えだと命は守れるというレベルなんです。」

智子「なるほど。それは構造計算上ということですよね。」

松尾「そうです。命が守れたとしても、家が半分傾いて全壊扱いになったら、経済的生命は終わります。命が助かったんだからいいじゃないか、と言えるかもしれませんが。僕は、そうは思いませんね。」

智子「いやそうですよ。家がないのに、住宅ローンは払い続けなければならないわけですから。」

松尾「そう、生き地獄じゃないけど、かなりきつい状況が始まるわけです。だから、もし僕が国交大臣やったら、ソッコーで耐震等級3を義務化します。その方が絶対に国民は幸せです。」

智子「本当にそうですよね。私たちにできることは、大震災の失敗から学ぶことだと思います。」


住宅に耐震等級「3」が必要なワケ

智子「松尾さんの書籍には、災害時にシェルターになる家という項目がありますね。断熱性能の高い自宅なら、避難所に行かずに生活できる、ということについて書かれています。家が倒壊してしまっては、これも叶いませんが。」

松尾「そうです。住宅ではなく、避難生活を送るであろう公民館などの施設から耐震していこうという動きがあります。でも、よく考えてみください。公民館が潰れて、ものすごい悲惨な思いをする人はいないですよね?」

智子「はい。そこには誰も住んでいませんから。」

松尾「小学校といった施設は、法令が出た時の避難場所になるので必要だと思いますが、そもそも、家が倒壊しなければ、体育館や公民館で避難生活を送らなくてもよくなります。」

智子「たしかに。家を強くしたら、大変な思いをしなくて済む。家族の命とその後の生活を守ろうと思ったら、耐震等級3は必須ということですね。痛いほどよく分かりました。」

松尾「耐震もそうですし、これまでお話してきた断熱や気密などに投資をしたとしても、光熱費といったランニングコストを減らすことができます。それに、耐震等級3だと地震保険の保険料も割引が適用されます。もっと言うと、第1話でお話したように、病気を予防することにもつながりますからね。
色々トータルで考えたら、同じくらいか、安くなるということが見えてくるのではないでしょうか。」

智子「断熱・気密・耐震が優秀だと体にもお財布にもやさしいということですね。まさに心と体の健康!これが、健やかな暮らしができる家の入り口ということでしょうか。」

松尾「そうですね。読者のみさなんには、今までの話を参考にしていただいて、幸せな家づくりをしていただきたいと思っています。」

智子「松尾さん、細かくご説明いただき、ありがとうございました。次回もお願いします!」

まとめ
気密は、断熱と同じくらい大切だということ、これからの備えとして、耐震等級3はマストだということが分かりました。

断熱・気密・耐震のレベルを上げると、建築費も上がってきます。だけど、建築費だけに目を向けるのではなく、省エネ化、健康、強いては、家族の命などを含めた「全体図」をオリジナルで作ってみてもいいかもしれませんね。
すると、大切な予算をどこに使うべきなのか、きっと浮かび上がってくるはず。
そして、これまでの連載が、考えるきっかけになれたらと思っています。

松尾さんが耐震等級3に込める思いが語られている動画です↓
https://youtu.be/zTHKx0a_7qw

次回は、健やかな暮らしができる家をつくるために、実はとっても優れている冷暖房機器について教えていただきます。
あれが、まさかこんなところに?・・・乞うご期待!

松尾設計室WEBサイト:http://www.matsuosekkei.com
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