中米・エルサルバドル 伝統文化と共にある暮らしと家 〜定住旅行家ERIKOが住んでみた、世界のお家 vol.7


公用語のスペイン語で“救世主”の意味を持つエルサルバドルは、グアテマラ、ホンジュラスと隣接している国です。面積は九州の半分ほどですが、600万人が暮らしており、人口密度は高めです。コーヒーの産地であることや、多くのサーファーが波乗りを楽しみに来ることでも有名です。
世界的名書『星の王子様』の物語と深い関わりがある土地で、著者のサン=テグジュペリの妻だったコンスエロ・スンシンの出身地でもあります。
また、マヤ文明が栄えた場所でもあり、国内を代表するマヤ遺跡“ホヤ・デ・セレン”は、世界遺産にも登録されています。

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首都サンサルバドルに暮らす、イラヘタさん一家

首都のサンサルバドルの郊外で暮らすイラヘタさんのお家は、レジデンスと呼ばれる区画された敷地にある一軒家。
エルサルバドルはお世辞にも治安が良い国とは言えません。生活の安全を守るために多くの家は、警備員が常駐しているレジデンス内にあるのが一般的と言われています。テリトリー内には住民以外の部外者は侵入できないため、子供たちも安心して遊ぶことができます。


イラヘタさんの家の前にはマンゴーやマラニョン・ハポネスと呼ばれるスモモ科のフルーツの木があり、食べたい時はいつでも取り放題です。ちなみにエルサルバドルでは、マンゴーにチリソースときな粉に似たパウダーをかけて食べるのが一般的です。日本人がスイカにお塩をかけて食べる感覚に似ているかもしれませんね。


イラヘタ家は、アニーさん、旦那のヘルナンドさん、息子のアンドレス君と、養子として受け入れているカミラちゃんの4人家族です。ヘルナンドさんは電話会社で働いています。
エルサルバドル人は、働き者が多く、「中米の日本」と言われています。会社は土曜日も出勤で、ヘルナンドさんの生活スタイルを見ていると、労働時間もとても長いように感じました。


藍染が伝統民芸品!? 意外な日本とエルサルバドルの繋がり


アニーさんのお仕事は藍染め職人。藍染めって日本だけじゃないの?と思われた方も多いと思いますが、実は藍染めは世界各地で行われています。
特にエルサルバドルは、16~19世紀にかけて、大規模な藍産業が行われており、スペインを始めとするヨーロッパへ輸出されていました。スペインの皇族たちは、虫除け効果や肌を守る実用性を兼ね備えた美しい藍製品を好んで利用し、イギリスの産業革命時代には、大量の藍製品が輸出されていたのです。

しかし、19世紀後半から化学染料の使用が増えたことによって、天然藍の需要は減り、エルサルバドルの藍産業は事実上、消滅してしまいました。その後、国民の藍への知識は薄れ、ネガティブな印象を持つ人が増えていったのです。
そして、エルサルバドルに再び藍染めを復活させる活動の中心となったのが、グアテマラに住む日本人の染色家・児島英雄さんでした。
彼らの地道で粘り強い活動により、今では藍染めはエルサルバドルを代表する伝統民芸品となっています。エルサルバルの藍染めの復活に日本人が尽力したということは、同じ日本人としてとても嬉しく誇らしい気持ちになりました。

アニーさんは、日本の徳島で藍染めの指導を受け、今ではエルサルバドル国内にある大学や教室で指導にあたられています。
そんな彼女が家族が暮らす、イラヘタ家のお家を覗いてみましょう!


家は“安全にくつろげる場所”。エルサルバドルのお家


イラヘタさんがこの家を建てたのは、1996年。初めは2部屋しかなかったそうですが、養子のカミラちゃんを迎え入れた時に増築したのだそう。

「家を建てる時に大切なのは、土地の広さね。将来どんな風に家庭状況が変わるか分からないから、家を拡大しても大丈夫なように、広い土地を選ぶことはとても大切なことだわ」


こちらはリビング。全ての部屋はアニーさんがペンキを塗り、デザインをしているのだそう。
家の中には、家族が信仰しているカトリックの十字架やマリア様の絵などが多く飾ってありました。その中でも、家族の家宝はマリア像。
マリア像は家族を見守ってくれる大切なものの一つです。


こちらが中にある、アニーさんの仕事場である染め場“オブラへ”。エルサルバドルの藍は、インディゴ・フェラと呼ばれる植物から抽出されています。
深い土のような独特な匂いを発しており、眺めていると気泡が出たりと、まるで生き物のようです。
アニーさんの生活の中で、染色をする時間は最も大切な時なのだそうです。
「藍染めをするときに大切なのは、心を無にすること。雑念がある時は、いつもと同じように染めたとしても、色の入り方がまるで違うんです。
自分の精神が染色に大きく反映される経験を繰り返すと、藍は生きていてることを実感します」

不安的な治安状況が続いているエルサルバドルでは、家というのは安全に過ごせる場所であることが一番という考えを人びとは持っています。
多少値段がはっても、危険が少ない場所に土地を買って建てようとします。
私たち日本人の感覚であれば、危険の心配もないので、なるべく安い物件を購入したり、快適さを優先させたりできますが、エルサルバドルでは、“安全はお金で買えるもの”という意識を強く持っています。
家は暮らす場所であると同時に、安全を確保し安心できる場所でもあると、エルサルバドルの暮らしから感じました。

アニーさんの藍染め作品はこちらから見ることができます(https://www.facebook.com/Anihra-Indigo-El-Salvador-1484256918460642/)。


ERIKO

モデル・定住旅行家 モデル活動と並行し、「定住旅行家」として、世界の様々な地域で現地の人びとの家庭に入り、生活を共にし、その暮らしや生き方を伝えている。 訪れた国では、民間外交を積極的に行い、現地と日本の架け橋になる活動も行う。これまで定住旅行した国は、ラテンアメリカ全般(25カ国)、ネパール、フィンランド、ロシア、サハ共和国、ジョージア、イタリア、北海道利尻島、三重県答志島などで、74家族との暮らしを体験。著書に『暮らす旅びと』(かまくら春秋社)。「日経トレンディネット」、「不二家 ERIKO&ペコちゃんの旅」で連載中。
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モデル活動と並行し、「定住旅行家」として、世界の様々な地域で現地の人びとの家庭に入り、生活を共にし、その暮らしや生き方を伝えている。 訪れた国では、民間外交を積極的に行い、現地と日本の架け橋になる活動も行う。これまで定住旅行した国は、ラテンアメリカ全般(25カ国)、ネパール、フィンランド、ロシア、サハ共和国、ジョージア、イタリア、北海道利尻島、三重県答志島などで、74家族との暮らしを体験。著書に「暮らす旅びと」(かまくら春秋社)。「日経トレンディネット」、「不二家 ERIKO&ペコちゃんの旅」で連載中。