いい家の判断基準「高断熱」断熱性能の指標となるQ値とは?建築家 松尾和也氏に聞く「健やかな暮らしができる家」第3話

2018.02.16

住宅ライターの箕岡智子(ともこ@住宅ライター)です。
「Aさんが親身になってくれたから」「Bさんと趣味が合うから」「Cさんの考えに共感したから」
住宅の取材で、会社選びの決め手は何かと尋ねると、前述のように答える人がいます。
あなたも、「人柄」で住宅メーカーを選ぼうとしていませんか?

住宅メーカーに訪問すると、いつも素敵な環境で出迎えてくれますよね。そこは、あなたの「家が欲しい」という欲求を満たしてくれる素晴らしい舞台。

だけど、利益を追求している住宅メーカーにとっては、あなたは、ネギを背負ったカモにしか見えていない?カモしれません。当然、そんな会社には当たりたくないですよね。

たとえ「この人とだったら家づくりが楽しそう!ワクワクする〜!」と思えたとしても、そこは心を鬼にして!
住宅メーカーを人柄で選ぶのではなく、実際にどんな性能の家を建てているかに注目していただきたいのですが、はてさて、一体どんな性能の家が「いい家」と呼べるのか。

まずは、いい家の判断基準を明確に持ってみてはいかがでしょう。すると、住宅メーカーに、何を質問したらいいのかも分かってくると思います。

書籍「ホントは安いエコハウス」(日経ホームビルダー編)には、その判断基準についてもたくさん書かれています。そして、この本の著者である建築家の松尾和也さんに、健やかな暮らしができる家について解説いただくのが本連載。今回は第3話です!

【家づくりの大事なことがグッとわかる!松尾和也氏に聞くシリーズはこちら】


松尾和也さんってこんな人


松尾和也(Kazuya Matsuo)さんプロフィール

有限会社松尾設計室 代表取締役(平成18年4月1日~)。1975年 兵庫県出身。1998年九州大学工学部建築学科卒業(熱環境工学専攻)。JIA(日本建築家協会)登録建築家。一級建築士。APECアーキテクト。2005年サスティナブルTOKYO世界大会で「サスティナブル住宅賞」受賞。「健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現する」がモットー。設計活動の他、「日経アーキテクチュア」「日経ホームビルダー」「建築知識」「新建ハウジング」等の専門誌への執筆活動や「断熱」「省エネ」に関する講演も行なっており、受講した設計事務所、工務店等は延べ5000社を超える。2009年パッシブハウスジャパンを立ち上げ、理事としてドイツの最先端省エネ建築の考え方を、日本の気候条件に合わせる形で普及促進活動を行う。日本エコハウス大賞の審査員も務める。著書には「ホントは安いエコハウス」「あたらしい家づくりの教科書」がある。
松尾さんの講演活動についてもっと知りたい人は第1話をご覧ください。


箕岡智子(以下智子)「前回は、実際に松尾設計室がてがけたM様邸を例に、解説いただきました。今回も、引き続きよろしくお願いします。」

松尾和也さん(以下敬称略)「はい!よろしくお願いします。」


何をもって「高断熱」といえるの?

智子「近頃は、高断熱や、高気密といった言葉をよく見かけるようになりましたが、やはり、これからは高断熱・高気密が当たり前なんですか?」

松尾「これからはというよりは、これまでもだったんですけどね。実は、40年前からずっと理論は変わらず言われ続けていることなんです。ただ、第1話でもお話したとおり、造り手の中にもまだアップデートできていない人が多いですから。」

智子「40年!そんなに月日が経っていても、アンチの人がいるのですね。今はいろんな情報が簡単に手に入るから、何が正しいのか、間違っているのか、混乱している読者さんもいると思います。」

松尾「ですね。でも、健康を守ってくれる暖かい家にしようと思ったら、高断熱・高気密でないと実現できないのは明らかです。」

智子「そうでした!そして、前回のお話の中で、その高断熱と深い関わりのある、熱損失というちょっと聞きなれない言葉が登場していました。
熱損失を数値化したものが、熱損失係数(Q値)(W/㎡K)。一般的にはQ値と呼ばれていて、たしか、建物から逃げる熱の量のことでしたよね?」

松尾「そうです。具体的に言うと、窓や屋根、壁、換気といったところから逃げる熱の合計を、家の延べ床面積で割ったものです。」

智子「そもそもなんですけど、熱って建物から逃げちゃうんですね。せっかく暖房で温めた熱が、冷めちゃうんですね。だから寒い家があるのか…。寒い家は病気の原因になると教えていただきましたし、暖房代がもったいない。」

松尾「そうですね。だから、熱を逃がさないように、きちんと断熱しなければならないことが分かりますね。」

智子「はい!健やかな暮らしを実現させるために、断熱性能の指標となるQ値についても、きちんと理解しておく必要がありますね。」


Q値には水準があるんです!

松尾設計室がてがけた高断熱・高気密のM様邸。延床面積は133.31㎡(約81畳)。
智子「ずばり、Mさんのお家のQ値はどのくらいですか?」

松尾「1.29(W/㎡K)です。」

智子「Q値は小さいほど、断熱ができているということでしたが、1.29(W/㎡K)は、小さいのですか?大きいのですか?」

松尾「小さいといえるでしょう。HEAT20 G2という水準があるのですが、その地域区分で求められている1.6(W/㎡K)より下回っているので、小さいといえます。」

HEAT20とは
深刻化の一途を辿る地球温暖化とエネルギー問題 。その対策のために「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」が2009年に発足しました。 HEAT20はその略称であり、呼称です。HEAT20は長期的視点に立ち、住宅における更なる省エネルギー化をはかるため、断熱などの建築的対応技術に着目し、住宅の熱的シェルターの高性能化と居住者の健康維持と快適性向上のための先進的技術開発、評価手法、そして断熱化された住宅の普及啓蒙を目的とした団体です。メンバーは研究者、住宅・建材生産者団体の有志によって構成されています。
参考ページ HEAT20

智子「だから、Mさんのお家は11月なのに暖房なしで20℃をキープすることができたのですね。お嬢さんが小窓を開けていなかったらもっと温かったという、驚きのエピソードがありました。」
(詳しくは前回をご覧ください。)

松尾「そうでしたね!ぼくが目指すQ値は、この地域区分の1.6(W/㎡K)というのがあるので、これを切りたいなという感じです。この地域区分は7つあります。北海道と沖縄では環境が違いますから。」

智子「ということは、自分が住んでいる地域の数値を調べておけば、明確な判断基準になりますね。住宅メーカー選びに役立ちそうです。」

Q値1.29(W/㎡K)のM様邸。吹き抜けがあってもこの数値。壁の断熱材は、約15cm幅の仕上げ一体型外張り断熱システムエコサームを、屋根にはセルロースファイバーを採用。
松尾「ただ、こういった計算をきちんとやっている会社は、100社あって1社あるかないかだと思います。実際に数えたわけではないですが、少ないですよ。」

智子「なんということでしょう!! それは、砂漠でオアシスを見つけるくらい難しいですね。」

松尾「もっと言うと、Q値やUA値(下記参照)を計算している会社は最低レベルはクリア。計算した数値がその地域のHEAT20 G2基準をクリアしていて、一次審査通過と言えます。」

智子「つまり、HEAT20 G2基準をクリアしていないと、いい家とは呼べないんですね。計算していればいいということではなくて。」

松尾「はい。ただ、日本は今、注文住宅が年間40万戸ほど建てられているんですけど、そのうちの半数くらいは、熱損失などを提示した住宅メーカーの営業を受けているのではないかと思っています。僕の計算からすると。
なので、会社の数でいうと1/100社かもしれませんが、注文住宅を検討している人から見たら、そのメーカーが選択肢に入っている可能性は高いので、実質的に見たらもっとあるように感じているのではないでしょうか。」

智子「すごくリアルな話ですね。たしかに、全国展開しているメーカーですから、ありえますね。Q値やUA値を計算している会社が少ないというのは驚きでしたが、高断熱の家にするにはそれが大切だということが分かりました。」

※Q値と同じ、建物から逃げる熱を数値として表した外皮熱貫流率(UA値)(W/㎡K)という指標もあります。一般的にはUA値と呼ばれています。下記、参考にしてみてください。

外皮平均熱貫流率(UA値)とは
建物内外の温度差が1℃の場合の部位ごとの熱損失量の合計を外皮等の面積の合計で除した値をいいます。UA値が小さいほど熱が逃げにくく、断熱性能が高くなります。
参考ページ http://jutaku.homeskun.com/syouene/2013point.html#p05

まとめ
今は、高断熱・高気密の住宅が当たり前の時代です。
何をもって高断熱といえるのかは、建物から逃げる熱の量が重要だということが分かりました。それだけにスポットを当てればいいわけではありませんが、覚えておきたい判断材料です。

次回も引き続き、M様邸を例に健やかな暮らしができる家について解説いただきます。お見逃しなく!!

松尾設計室WEBサイト:http://www.matsuosekkei.com
松尾設計室の実例がいっぱいのインスタグラム:mao_matsuosekkei