備えない防災「フェーズフリー」な家づくりとは?

2023.02.15 烏田千洋
激甚化する自然災害。普段の家での防災対策が肝心とは思いつつ、非常食の賞味期限を切らしたり、家具の転倒防止対策が後回しになったりと、なかなか思うようにはいきません。

そもそも家自体、耐震性さえ備えておけばそれで万全なのでしょうか?


そんな悩ましい家の防災対策を、実のあるものにするためにぜひ取り入れたいのが「フェーズフリー」という考え方。「ふだん快適に暮らせる住まいが、非常時も安心な住まいになる」というフェーズフリーな家づくりとは? フェーズフリー建築協会のみなさんにお話を伺いました。

<お話を伺った方>
特定非営利活動法人フェーズフリー建築協会
理事長/一級建築士 風祭千春さん、理事/一級建築士 勝見紀子さん、一級建築士 松山千晶さん


備えない防災「フェーズフリー」という考え方

「フェーズフリー」とは、防災の専門家である佐藤唯行氏(現・一般社団法人フェーズフリー協会 代表理事)が2014年に提唱した概念。

日常時から、災害という非常時に備え続けることは意外と難しいもの。それならば、「日常時」「非常時」というフェーズ(段階)を切り分けずに、フェーズから自由になって日常時でも非常時でも役立つようにモノやサービスを作ろうという考え方です。

日常時と非常時がつながりあった、災害にも強いフェーズフリーな社会を目指そうという取り組みでもあります。

フェーズフリーなプロダクト例:目盛付きデザイン紙コップ。日常時はもちろん、避難所での赤ちゃんの粉ミルク計量など非常時にも役立つ(写真提供:フェーズフリー協会)


日常の価値が非常時に生きる「フェーズフリーな建築」

フェーズフリーな建築とは、このフェーズフリーの要素を取り入れた建物のこと。住宅でいえば、日常時の生活をより快適にし、非常時の営みも両立できる「そもそも備えておかなくてもいい暮らし」を叶える家です。

「命を守るための耐震性や耐火性、耐風性などは大前提。建物を強固にする以外に、いざ災害にあったら『ふだん使っていたモノや動線が役に立った』というのがフェーズフリーな暮らしを実現する要素のひとつだと考えています」(風祭さん)

たとえば、便利な勝手口。道路へのアクセスがよく、ゴミ出ししやすい勝手口は、いざというときに安心して外に出られる避難経路になります。逆に、普段から狭くて使いにくい勝手口なら、非常時にも避難しにくい出口ということに。

日常生活でラクに使えたり楽しく暮らせるつくりが、そのまま非常時にも役立つというのが「フェーズフリーのツボ」(勝見さん)です。


暮らしやすさが防災になる。フェーズフリーな家づくり

ツボを押さえたフェーズフリーな家づくりでは、「災害への備えを! 」とガチガチに考えるよりも、暮らしの豊かさを大切に考えていくことがポイント。

「暮らし方に根付いた家づくりが大切。QOL(Quality of life/生活の質・生命の質)を上げていこうというのが、フェーズフリー建築の基本的な考え方です」(松山さん)

日常の豊かな暮らしを軸に、いくつかのアイデアをご紹介します。

マイルールを形にすれば自然とフェーズフリーに


間取り設備を考える時、「あればいい」ではなく、「使いやすいか」を考えることが重要。住む人・使う人本人が使いづらかったら、日常性がゼロ。そこからフェーズフリーは生まれません。

「たとえば『洗濯』。洗濯の仕方ひとつとっても、人によってやり方はさまざま。『私の洗濯の仕方はこう』という暮らし方のマイルールがあります。洗濯物を干したり取り込んだりする動線や、どこにしまうかをよく考えて間取りに活かします。その工夫が、いざというときの避難路として役立つなど自然とフェーズフリーになってくるものです」(勝見さん)

家と道路との関係性を考える


フェーズフリー住宅では、「玄関から道路までの空間」を大切に、豊かに作ろうと考えます。

たとえば、玄関ポーチの前にプラスアルファのスペースを作っておくこと。ふだんから近隣とのコミュニケーションがよくなり、災害にあったときの助け合いに役立ちます。日常的にはちょっとした作業場として使ったり、非常時には災害ゴミの一時置場になったり。「ちょっとある」というのが活きてくるものです。

家族も分断されていないこと


コミュニケーションの大切さは、家族間においてもいえること。家族でも、分断されていないことがとても大事です。みんなが集まる部屋を重視しつつ、程よい距離感が保たれるようそれぞれの居場所を家のつくりに落とし込みます。一声かければつながれる位置関係が、非常時には迅速な安否確認につながります。

ささいな喧嘩の種は、危険の種


日ごろからすれ違いざまに肩がぶつかってイライラするような狭い廊下は、混乱した非常時の避難経路としては不安が残ります。回遊動線になっていれば、日常のストレスも少なく無用な喧嘩も避けられます。非常時には、他にも逃げ道があってよかったねと気づくことになります。

災害対応サイクルを意識した家づくり


コンセプトは分かったけれども、具体的にはどうしたらよいか分からない。そんなときヒントとなるのが「災害対応サイクル」。災害発生から日常に戻るまでの間に、どういったプロセスがあるのかを表しています。

災害発生から日常にもどるまでの対応過程「災害対応サイクル」

日常時の暮らしはもちろん、災害発生時そして命を守った後、復旧までの疲弊しない暮らしまでイメージして考えていくと、さまざまな家づくりのアイデアが浮かんでくるでしょう。

>>もっと見る【フェーズフリー住宅の間取り・収納アイデア】
注文住宅で防災に備える間取りとは? 平常時も非常時も安心な工夫


バリアフリーのように、当たり前にフェーズフリーに

フェーズフリーな建築といっても、特別に設計が難しいわけではありません。将来の家族の変化、家事動線メンテナンスのしやすさ、断熱性能といった基本的なことを意識した設計で、住まう人・暮らしに寄り添って作った家は、自然とフェーズフリーを取り入れた家になります。

「災害だけに強い家を作るのではなく、暮らしの豊かさを考えているということが一番大事なこと。日常だと思っているところに、非日常は潜んでいます。夫婦げんかもある意味でひとつの災害なんじゃないでしょうか(笑) 今では当たり前になったバリアフリーと同じように、フェーズフリーを取り入れた建築が当たり前になる日を目指して活動しています」(風祭さん)


ワクワク楽しく取り組むことこそ「フェーズフリー」

日常時も非常時も、「適切な生活の質」を確保しようとするフェーズフリー住宅の考え方。暮らしやすさを考えた家づくりをしたら、強いて備えることなく防災対策になるなんて、家づくりに活かさない手はありません。

なによりもフェーズフリーの取り組みは、「ワクワク感、楽しさが大切。楽しみながらできる日常を豊かにする工夫が大事」(松山さん)とのこと。

心躍るマイホームづくりに、ぜひフェーズフリーの考え方を取り入れてみては。

>>もっと見る【どんな家にしたい? 我が家の「豊かな暮らし」の考え方】
後悔しない家を建てるために!プロに教わる「家づくりノート」の作り方

<取材協力>
特定非営利活動法人フェーズフリー建築協会
2016年設立。「いつもの快適な生活が、もしもの時の支えになる」建築を目指して、フェーズフリー住宅デザインコンペの企画・開催、フェーズフリー建築の提案支援など、フェーズフリー建築の普及・啓蒙活動を行う。
http://phasefree-a.or.jp/

>>家族の命を守ろう! 災害に強い家づくりを解説
>>停電時にも役立った?エコキュート、よかった点と後悔した点を聞きました


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この記事を書いた人

烏田千洋

編集・ライター
家の建て替えか、リフォームか迷いつつ情報収集の日々。憧れは、トリプルガラスの樹脂窓と、全自動おそうじ機能付きの換気扇、朝日の入る日当たりのよいお家! 趣味、園芸。日本のいいね!が、見つかるメディア『japonism』編集長